23 無名さん
(悔いている。ずっと、ずぅと。悔いている。何を。なにもかも。悔いている。祈られた通り、悔いている。 悔いている。 悔いている。ころしてしまったと。それを悔いる事には疲れました。しんだひとの家族のまなざしも、想像するまでもなく、おそろしい。悔いておるのです。いぜんより、もっと熾烈な、目に見えた悪意にさらされ、そのおくで、死したひとやその娘のとげをかってに感じています。後悔にちくちくと苛まれています。暖炉に棒をつっこめば、 不出来なこ娘が おまえは我らの救世主を殺した おまえの祈りは偽りだったのだ などと責め立てる声が聞こえましょう。であわなければ。うまれなければ。さいごに、みずからの手で やらせてしまった / やれなかった。悔いても、悔いても、悔いても、ゆるしなど、どこに存在するのでしょう。残されたのは、呪われた身体と魂にございます。 ヴァルハラを取り上げられ、みずから命を手放すことも、ひどくおそろしく、こんなこ娘にできやしないのです。身体が限界へ至るまで意識を保ち、そして、部屋の片隅で丸まったまま、ふいに泥のように眠るります。フィンブルヴェトを過ぎてからも、身体は細る一方でした。ときに、ひだりのなか指から腐ってゆくので、あわててデレッキなどで切りはなすゆめを、 いや、ゆめでしょうか。9本指はもとからだったか。そうです、父がおしえてくれた中に、くすり指だけは火葬するとゆうものがありました。いいえ。おまえの生と死は地続きなわけあるまいよ。ですから——再びあらわれた赤い月、そのしたの影へむかって歩くなか、それを、腹をえぐったひとの帰還とおもいまして、リトスツはよろよろと逃げたのですが、それすらもまぼろしだったかも分かりませんし、いいや、リトスツは武装したウルフヘジンに踏みつぶされたでしょう、上の娘に今度こそペンダントで息の根を止められるつもりで 、 とかく、“そこ”へと至ったのです。“そこ”へ。)……、(無数の目玉をむけられ、「神はいない 天国なんぞ 在りはしない」、それこそ、“そう”いう宗教歌のようなのを浴びせられました。リトスツの無意味さをまざまざと知らしめる合唱。あのひとが残した呪いの輪唱ともいえるでしょう。ひた、はだしが場所をかえて。踏み荒らされた雑木林に落ちてる枝みたいな毛が揺れないまま、振り返ります。そこに、くぐりぬけたはずの扉は存在しません。かわりに。赤毛の肖像画があるのでしょう。)………のろいたりないか、…そう…。(一歩あとずさり、座りこんでしまいました。逃げたところで、どうせ、耳元ではずぅと呪詛が鳴りやみません。どの絵画よりもか細い声でありましたのは、あの日以来、ろくに声帯を使わなかったからでございます。色を亡くした眸子は、しかしながらやはり、その顔を直視する勇気がなく。ひとまずは隈が、窺うように見上げていたでしょうか。)