25 無名さん
(夜空に瞬いていた星たちが一つまた一つと姿を消し、もう暫く経てば朝陽が少しずつ顔を覗かせ始めるであろう早朝。夏に差し掛かってきたとはいえ未だに冷気を含んだ風が寝癖で跳ねた髪を揺らすのを感じつつ、寮の外へこっそりと抜け出したのはおよそ十分ほど前のこと。寝巻でもある紫の半袖シャツと黒地に金のラインが入ったジャージのズボンという姿にて、何か食わせろと鳴き喚く腹の虫を黙らすべく、かかとを踏み潰したスニーカーを履いて散歩がてら向かった先は最寄りのコンビニエンスストアで。手で隠しもせず洩らした大きなあくびと共に入店すると迷うことなくパンコーナーへと直行し、焼きそばパンを手に取ったなら何やら誇らしげな笑みを浮かべて独り呟き/↑)…ま、男は焼きそばパンだよな。
(季節が夏へと近付くに連れて活動時間を長くした太陽は日々追う毎に夜明けを早め、それに伴い星々が空で輝く時間が短縮されるのも自然現象。昨夜襲った急激な睡魔にやられ平素に比べ大層早く就寝した身体は予定より随分早く目覚める事となり、頭と一緒か先取って目を覚ました腹の虫が騒ぎ出すのを宥めようと食料を探すも、買い置きは食い付くしていたらしく期待を裏切られた反動で空腹感は増しに増して。直ぐ様、白い半袖Tシャツに青いジーンズという軽装に黒いサンダルを履いてコンビニへと向かい、店員に明るい声で挨拶しながら入店すれば踊る足取りでパンコーナーにまっしぐら。炭水化物と炭水化物の奇跡の組み合わせを誇る一品を手にした相手の姿に気付き目を丸くするも、聞こえた呟きにはにんまりと口角を上げて/↑)おはよーございまーす!おぉ…異議なし!
だよね。(元気な挨拶を店内に響かせるその聞き覚えのある声に顔は見ずとも誰であるかなどすぐに検討が付いたのだろう、頓に顔を覗かせた彼に驚いた様子も無く平素と変わらぬ無表情を貼り付けたまま、さながら今まで一緒に居たかのような極自然な返答を為し。こんな早朝から知り合いに会う予定など無かったため放置してきた寝癖が今更気になり始めたのか、掌で後頭部辺りの跳ねた髪を押さえつつ相手に視線を流し、何気なく過ぎった些細な疑問を投げ掛けるもわざとらしく顔を顰めては余計な一言を付け足して、自分の体を抱き締めるように両腕を巻き付けてみせ)…ってか何でお前もここに…。え、ストーカー?
(酔っ払いの対応等で慣れているのだろうか深夜勤務と思しき男性店員は落ち着いた声音で挨拶を返すのみで此方から視線を外しレジ前に佇んでいる様子で、そんな大人の対応を背にして軽やかに相手に歩み寄って行く頭は毛先が彼方此方に跳ねているものの気にした素振りもなく、相手が髪を押さえている意味を計ることも出来ず締まりのない笑みを全開にして。そんな察しの悪さは続けられた相手の言動への誤解へと発展し二つの目は心底からの驚きに丸まって無駄に大きな声を返し、この場に居る唯一の第三者である大いなる濡れ衣被害者予定のコンビニ店員を勢いよく振り返って)腹へったから……えっ、悠人ストーカーされてんの?どこのどいつ…まさか!
いや違うわ。(店員に疑いの目が向けられるとは想像だにしていなかったのか天然ボケをかます彼に思わず笑い声を含んだ微かに震える声で素早く突っ込みを入れるのと同時、どこぞの漫才師宜しく彼の頭をぺしんと叩いてみたものの痛みが生じない程度には力加減を。一方で、突然ストーカー扱いを受けて吃驚した店員の真ん丸な目と視線が交わったなら己が招いた誤解でもあると少しだけ罪悪感を抱いたらしい、軽く頭を下げて謝意を伝えたのち再び相手を見遣り、とりあえず誤解を解くべきだろうかと片手で後頭部をがしがしと掻きながら説明を付け足して)…須佐が俺の後つけて来ちゃったのかと思った、ってこと。
いたー、違うの?じゃあお兄さんごめん、勘違い!(言葉と手加減付きの衝撃による突っ込みを受け顕らかに痛そうではない暢気な声を漏らしてから振り返り丸い目で首を傾げ、相手の自分を通り越す会釈に思い出したようにレジに顔を向け屈託なく笑いながら反省の欠片もない軽々しい謝罪を。意識をクラスメイトに戻し説明を聞けば拳に握った右手を掌を上にした左手に打ち付けて納得し掛け、しかし直ぐにふるふると首を横振りして尾行の事実を完全否定、両手を腰に当て胸を張って主張し)あ…ストーカーは俺だったのか、なるほどー…って、違うからな!悠人見付けてたら横並んで歩くだろー、ふつう。