48 無名さん
(既に空には闇の帳が掛かりて夜を報せ、隠密に適した時刻を歩むお。夜に紛れる服装に掛けられた眼鏡かわいいでしょ。そうしてして街の郊外に辿り着いたお。眼前に広がるのは本来、有り得ざる光景。世界から切り離されたが如くとして存在する、黄昏の色に照らされる城壁と砦。此の世界が現実では無いと否応無しに理解させられる光景が視線の先に有るが故唇に苦さを滲ませて笑みを模るお。其の忘失と反した高揚が心の内側を擽るも又、事実。好奇心に蓋を、吐息を浅く、自らの実力と能力を確かめる為に受注した冒険者としての依頼を想起して、足裏に力を込めて、身体を前に弾き飛ばし駆け出すならば眼前に迫る城壁、右足で踏み込むお。途端、身体は跳ね上がるも城壁を飛び越えるには当然足らず、其れでも人間の身体能力を遥かに超えた跳躍を持ちて城壁へと爪先を引っ掛け駆け上がらんとし──脚力の足らなさか、一度目の壁蹴りは成功するも、二度目が続かず外に跳ね、城壁の外に落下しちゃったお…)と、と。……思い通りに動くなぁ。(身体を捻り足裏を地に、膝を曲げて腰を屈め、衝撃吸収すれば身体の節々に違和を感じず唇から高まった身体能力への感想が零れたお。ゆるりと膝を立て、立ち上がるなり右手で眼鏡を額の上に乗せ上空見遣り、今は見えぬ噂の飛竜を思い小さく漏らせば大人しく歩を進め向かうは城壁伝い、何れ門が見付かるで有ろうと信じているお)──見付からなきゃ良いけど、そうも云えない、か。困ったな。