67 無名さん
…ここでしたか。もう逃しませんよ。貴方には、おとなしく僕に捕まって貰うしか道はないんです。さあ、覚悟を決めて出て来て下さい。(夕焼けに燃えていた茜空も、時が経つごとに色が抜け行き、藍色の侵略へと身を委ね始めた放課後。駐輪場から中庭へ抜ける道の丁度途中にある用具入れ ―無理をすれば男子生徒が四、五人は入れるだろうゆったりめのスペース― の、開け放たれた儘放置されていた扉を囲う様に、仁王立ちの男が一人。芝居染みたその台詞が不穏に響いたのは、不本意ながら時間経過の所為で苛立ちを覚えている為である。此処に至る迄の苦労を思えば、それも仕方ないのかも知れない。発端は期間限定で一学年が管理、飼育しているうさぎの世話を、飼育係の急な欠席と言う理由で安請け合いしてしまった事にある。慣れない作業中に、自分のミスで一羽の脱走兎を出し、その侭捕獲作業に明け暮れた事も反省点と言えるだろう。動物の扱いに余り慣れていない為か、此れ程迄に手古摺るのは予想外であった。兎が間違いなく用具入れ中に入って行くのを確認しているお陰で、姿は確認出来ていなくとも、後は道具の物陰何処かへ潜んでいる獲物を捕まえるだけ。用具倉庫の中を見詰め、殺気を込めた視線で室内を探っている限り、そう上手く事が運ぶとも思えない状況であるが、果たして/↑)