74 無名さん
おお、狗賓に会うのは初めてか。お主の言う通り、天狗の種であることに間違いはないのじゃが……(不思議そうな声でもたらされた河童の疑問を、話題の耳で聞き終えてからやっと顔を離したかと思いきや、その目は嬉しげに細まり初会合を口にする言葉にもやや高揚した色が混じる。身長の差を埋めるように折り曲げていた腰を緩やかに伸ばしながら続けた言葉は朗々と、どこか誇らしげに自身の種族について説明を始めたものの、最後は中途半端に区切り悪戯に口角を上げ。突然、その場で高く飛び上がった。そして天を蹴るように空中で一回転してから後方に着地した時にはそこへ翼を持った黒毛の狼が現れた。顔周りの僅かな白毛が唯一人形の時の名残か。秋の夕暮れに遠吠えを一つ残して瞬く間に人の姿へと戻った狗賓は太い尻尾を揺らしつつ肩を竦め、楽しげに口元を緩ませたまま話を再開する。…問い掛ける際に若干目を輝かせ相手を上から下から観察する行動が付け加えられたが)――とまぁ、元はあのような姿でな。人へ化けようともこれは消えないらしい。それに比べてお主の化けは上手いのう、姿はまったく人間じゃ。なんぞ極意でもあるのか?