80 無名さん
(嗅ぎ取ったその匂いの正体が、童女の求めて止まぬ人斬りの匂いだろうか。すんと鼻を鳴らした後もついぞ口にする事は無く。近付いて来る瞳に映り込むのは道無き道を駆け土埃に煤けた狸で、主とは似ても似つかぬに違いない。にも関わらず尊大にゆったりとした語調で訊き返しながら、辺りを満たしてゆく死の匂いに反応して再びざわざわと毛が逆立つ。落ち着かぬ尾が柔らかく地を叩いた。息絶えた瓜坊に横目を送り、眼前の童女と見比べる。容易に戦いを吹っ掛けるには些か底知れぬ相手だ。)お主は飢えを知らぬのに、飢えた目をしている。それ程主が恋しいか。面白い。…どうすれば手に入るのだ?