1 エレン・イェーガー

兵団一の物好き野郎に宛てて。

お前がここにとんでもなく恥ずかしい手紙を書き記してたのは、とっくの昔に気付いてたよ。
表紙を見た瞬間はまさかお前が書いてるとは思わなくて、オイオイマジかよ…って思ったけど、開封して中を半分も読んだ頃には羞恥心とそれを上回る嬉しさで、気付かないうちに持ってた手紙の端っこを握り締めててさ。あとなんかの水でくしゃくしゃにしちまってた。だから所々滲んだりヨレちまったけど許せよな。

お前から連絡を受けた日は忘れもしねえ。
お前こそ、オレが今この手紙を書いてるのがどんな日にあたるか分かるかよ? 手紙が届いた時壁外にいたオレが必死こいて帰還して、脇目もふらずお前に会いに行った日からちょうど1ヶ月だ。忘れたとは言わせねぇからな。
お前の手紙を見つけた時に、オレからの手紙は絶対この日に送り付けてやると決めた。
たった数日なのに早く返したくて、時が経つのがとにかく遅かった。…はぁ、やっと返せる。やっと言葉を届けられる。ここまですっげぇ長かった…!

お前と離れてからはいつも何かが足りなくて、夜一人で寝る時もやたらとベッドが広く冷たく感じたりしてよ。お前と初めて布団の奪い合いをしたあの日まで当たり前だったモンが、離れた途端に色褪せたり、どっか遠くに感じるようになっちまってた。
一年も過ぎる頃にはある程度慣れもしたが、それでも完全に忘れることなんて出来なかった。
お前が言うように、一緒にいた期間は決して長くなかったのに…何でだろうな。明確な理由がわかんねぇのがすげぇむず痒い。分かってたのは、お前じゃなきゃ埋まらない部分があるって事だけだった。
たった一晩でいいと求めた甘さからは遠い温もりが、自分でも知らないうちに、帰りたいと願う居心地のいい場所になってたんだ。

ったく、アホ面で悪かったな。オレを嫌ってたお前が必死に呼び掛けてる姿を見せられたら、そりゃ驚きもするだろ。
…って、ん?恋人?になったんだっけ?そうか、好きっつったから恋人、なのか。…っ、待て待て、なんか急にすっげえ恥ずかしくなってきた…!
お前よくそんな真顔で言えるな。こっちがお前の分まで倍恥ずかしくなるだろ。
オレだってこんな仲になるなんて予想してなかったんだ。一杯いっぱいでお前の気持ちを笑ってる余裕なんかねぇっての。わかれよな、ばーか。

ジャン。お前があの場所で待ってんのを見つけた時の気持ちの半分を分けてやりたいくらいだ。半分でも充分心臓が破裂しそうなほど、あったかくて幸せな気持ちで溢れ返ってたんだぜ。
捧げたはずの心臓は、いつの間にかお前に持ってかれちまってた。布団半分の対価としちゃ高すぎだろ。
だから、お前の心臓はオレに捧げろ。
オレの心臓はお前に託す。
お前が生きる限りオレは生きるし、その逆も同じだ。お前が傍に在り続ける限り、オレはお前と共にある。
これだけ散々心を掻き乱しておいて、離れられるなんて思うなよ。責任ならこれからの長い時間を掛けて、少しずつ取っていってやる。
だから、お前は一秒でも長く生きて、一秒でも長く隣にいてくれ。

我が儘はお互い様だ。って言いたいけど、実際はオレばっか言ってる気がするんだが。お前さぁ、あんま甘やかすなよ。うっかり増長しちまった結果、この前みたいな甘えを出した。オレの甘えが原因でお前をまた失う羽目になるなんて、絶対にごめんだからな。だからあれは、もうやらない。…つもりだ。
オレは甘えんのは慣れてねぇし、甘やかすのも上手くねえ。だから我が儘を言い出したら、甘えを許される場所を知っちまったら、止まれなくなる気がすんだよ。
あぁ、でも、ひとつ我が儘が許されるなら、お前の最初で最後の手紙。いつかオレがくたばった時は、あれを一緒に燃やしてくんねぇかな。
最後ってのは寂しいけど、それだけ希少で貴重な代物ってことだろ。な、頼んだ。

待っててくれて、遅れたオレを出迎えてくれて、本当にありがとな。
お前が手にした奇跡ってヤツは、お前の忍耐と強い意志がもたらしたもんだ。そこは素直に誇っとけよ。お前の起こした奇跡のお陰で幸せを掴めた奴が、お前の隣にもう一人居るってことを忘れんな。…もしお前の方の幸せが足りてねえってんなら、そこはまぁ、ちょっとずつ頑張るから。
背中は任せた。代わりにお前の背はオレに預からせてくれ。叶うなら、この先ずっとな。
なぁ、ジャン。オレもお前が好きだ。…大好きだ。お前のこと、ずっと大切にさせて欲しい。

最後になるかもしれないと思ったら、つい長々と書いちまった。
それでもまだまだ伝え足りないぐらい次から次へと気持ちが溢れて来るんだから、どうしようもねぇよな。

たくさんのありがとうを、今までとこれからのお前に向けて。


追伸。
お前がいつの間にか消しやがったあの時の手紙の一枚目を写して持ってるっつったら、お前はどんな顔をするんだろう。
呆れるか、それとも笑い飛ばすか?あれはオレにとって地下室の鍵と同じくらい、決して無くせない大事なモンだ。お前が書いてくれた新しい手紙もあるから、これで大切なものは3つ…いや、お前自身も含めたら4つか。
律儀なテメェのことだから、そのうち消すんじゃねぇかと思ってたら案の定だしよ。あと少し行動されんのが早かったらヤバかったけど、間に合って良かった。あの時、なんっか胸騒ぎがしたんだよなぁ。
消してくれと頼まれない限り消すつもりはねぇし、いざって時はネタにしてやるから喜べよ。ざまーみろ。
2 エレン・イェーガー
もう書かないつもりだったけど、なんか色々と溢れちまいそうだから綴っとく。
前回のがラストにならなくて悪いな。
お前の手紙と並べときたかったから書くかどうかすっげぇ悩んだんだけど。…なんて言ったら笑われちまうか。

前に書いてから一ヶ月とちょっとか。その間色んな事があったよな。再会してから一ヶ月目の時まではしてなかった割とガチな喧嘩とか、色々とさ。だからかな、改めてお前とのことを考えたくなったんだ。念のために言っとくが、いい意味でだぞ。

毎日毎日、お前のせいで感情を揺さぶられてる。嬉しい、楽しい、幸せ、胸ん中がくすぐってえ、ムカつく、寂しい、痛い、怖い、あったかい、会いたい、もっと欲しい、触れたい、好きだ。忙しなさすぎて自分でも制御しきれねぇよ。
怖いってのは、アレだ。好きすぎて自分で自分がわかんなくなる瞬間があるとか、甘えが出ちまうとか…なんか、そういうやつ。お前自身が怖いんじゃねぇから。前はお前を失うことも怖さの中に含まれてたけど、今はその類いの恐れはあまりない。
それを拭ってくれたのはお前だ、ジャン。オレがビビりまくってたあの日お前が掛けてくれた言葉に心をぶん殴られた。信じられるヤツが隣にいるのになにを怖がる必要があるんだって、改めて気付けたんだ。

でもな。その時々でどんな感情が混ざったとしても、現状が嫌だとか、離れたいと思った瞬間は一度としてない。
お前がマジで怒ってんなって時はこっちに非がある時やオレが迷っちまってる時だけだって見てりゃわかるし、お前の本気の言葉や拳で気付かされることがたくさんあるから、その度にすげぇ心に響く。この前頬に食らった拳もすげえ効いた。けどその分、お前を傷付けたり苛立たせてんだよな…。そこは本当に悪いと思ってる。ごめんな。

…にしても、あんだけ好き勝手に言い合いながら
離れるって言葉が出ないのはすごくねぇかって、ちょっと驚いてる。オレから離れる選択肢が出ないのは必然だけど。
だってよ、5年だぞ。並大抵の覚悟で待てる年月じゃねぇだろ。オレ達みたいなガキが胸張って大人だと公言出来ちまうだけの成長を遂げられる、長い長い月日だ。その時間を考える度に言葉じゃ表現できない愛おしさが溢れてきて泣きそうになる。なんだよコイツ、マジでどうしようもねぇバカだな、あーどうしようもなく好きだって。
そう思うと同時にその忍耐力に感謝するし、悔しいけど格好いいヤツだと再確認して尊敬する。買い被りじゃねぇよ、少なくともオレはお前以上に男前な野郎なんて知らねぇもん。

あの時お前と出逢えて、そして再び会えて本当に幸せだ。
お前はどうだろうな。再会してこんなハズじゃなかったと幻滅や後悔をしてないか。今じゃなくていい、愚痴でも悪態でもなんでも構わないから、寝物語代わりにいつか聞かせてくれ。どんな形でもお前の言葉がオレに沁みないなんてことは絶対にねぇからよ。

なんでオレなんだって思う事はある。
人柄のいい奴も技術的に凄ぇ奴も、面に限って言えばそれこそ似たヤツがこの世界には数えきれない程居るはずだ。
それでもお前はオレを待っててくれた。その意味を考えてしっかりと胸に刻んでいたい。
過ぎちまった5年をホントにもったいねえ、なんでもっと早くに気付かなかったんだって悔いる時もある。もっと早くに手を伸ばせていたら、共に歩める時間は更に増えただろうしな。
…でも、またこうして会えた。お前と日々を共に過ごせる今がある。それが何より嬉しいんだ。
後悔を遥かに超えるくらい、今の幸せをちゃんと感じて、お前と共有していけたらいいな。…じゃねぇな、共有して行こうぜ。

再会を果たした瞬間より、一ヶ月前に手紙を綴ったあの日よりも、ジャンが好きだ。
どんなに見慣れた風景でもお前と見る景色は、一人で見てたものとは比べらんないくらいすごく綺麗に映る。同じものなのにお前が居るだけでこんなに変わるのかって驚いてるくらいだよ。
すぐには無理でも、きっと幸せにしてみせるからな。だから…これからも隣に居ろよ。…居て欲しい。お前以外欲しくねえ。

壁外の任務で忙しそうなのに、いつも言葉を届けようとしてくれてありがとうな。
お前が隣に居る夜はひどくあったかくて優しくてつい甘えちまう。会えるのはすげぇ嬉しいけど、ちゃんと自分のことも大事にしてくれよ。
お前こそが、オレの居場所なんだからさ。
前に話した『いつか』の瞬間までは、お前を独占させてくれ。

いま一度、この瞬間に。
かけがえのない唯一へ、心臓と心を捧げる。
3 エレン・イェーガー
今は便りの届かない壁外のお前に宛てる。

急かすつもりは更々ねぇからこの日まで待って記すことにしたけど、気ばかりが逸って仕方ねえ。お前を待つ数日間で、窓から遥か遠くに聳える壁とそこに座す扉の方角を見るのが癖になっちまったみたいだ。
どんな面して戻って来んのか今から楽しみでしょうがねぇよ。活躍をひけらかしながらムカつく笑い方をされても今なら一発殴ってチャラに出来そうな気分だ。
撤退を憂う沈痛な面でも構わねえ。
どうか生きて帰って来い。それだけだ。
そして毎朝毎晩、外を眺めながら無事の帰還を願い左胸に拳を添えてたオレを笑え。

ほんの数日間がこんなに長いと感じるなんて、初めてここに手紙を残した時以来だ。
空白の期間に自分のこれまでを省みていい意味で頭は冷えたが、反面、お前の存在がどれだけオレの日々に色を添えてたかを強く思い知らされちまった。

今は何より会いてえって強く思う。
ジャン。
何日経ってもいい。無事な姿を見せろ。
お前に直接届く位置でまたその名を呼ばせてくれ。
どうかそれまで無茶してくたばるんじゃねぇぞ。

……お疲れ。
4 エレン・イェーガー
一年の中の一日にしか過ぎなかった今日この日が、お前の誕生日だと知った瞬間から特別なものに変わった。
追い付いたと思った矢先に、また一年近く掛けて追い掛けなきゃなんねぇのがすげぇ悔しい。
けど今はそんな張り合う気持ちは置いといて、他の誰がお前に告げるより先にオレから伝えたい。
他は何を聞き流しても構わねぇが、今から言う一言だけは右から左に流すんじゃねぇぞ。
ジャン。誕生日おめでとう。

何だかんだでお前とはそれなりの年月を跨いで縁を繋いでるが、直接言うのは初めてだよな。
オレの誕生日を祝ってもらうのも初めてだった。初めてお前の部屋に踏み込んだあの時は、その先の未来でその日最初に受ける祝いの言葉をお前の口から聴くことになるなんて、考えもしてなかったな。
お前の誕生日の前日に時計の針をこんなに何度も眺めるようになるとも思ってなかったしよ。

最近は会える日より会えない日の方が多いけど、ほんの数日の空白なんざ、安否や行方さえ知れなかった5年の空白に比べりゃ瞬きみたいなモンだろ。それに会えない日もある分、会えた瞬間の安堵感は増してんだと思う。
お前が隣に居る日々が当たり前じゃないなんてのは離れてた5年で嫌ってほど思い知ってるが、今ある空白はその思いを忘れずに刻むためのものだと考えてる。
だからまぁ…何が言いたいかって言うと、変に気負う必要はねえって事だ。互いにこなすべき任務がある。お前はそれを全うするために努力してる。その頑張りを認めはしても責めるつもりなんざ更々ねぇよ。
それに、顔を見た途端に待ってた時間なんて吹き飛んでほとんど忘れちまうしな。会えたら会えた分だけ嬉しくなるけど無理をさせたくはねぇし、オレも待たせる時があるからそこはお互い様で手打ちにしとこうぜ。

お前が隣にいて、ムカつく笑い方をして来たり説教して来やがったり嬉しそうにしてたり、照れたり真剣だったり、そんな色んな表情や感情を一番間近で見て感じられんのがオレの幸せだ。
それに気付くまでは自分の幸せが何かなんて考えもしてなかったけどな。気付かせてくれたのはお前だ、ジャン。
飛び越えちまった空白の日々を、これから少しずつお前と二人で埋めて行けたらと思う。一緒にやりたい事、挑戦してみたい事がたくさんあるからな。お前が言ってたあれとかそれとかも、たくさん。
何気なく過ごす日常も、こうした特別な日も、お前と一緒なら全てがきっといい思い出になると信じてる。そんで後で二人で振り返って笑い合いてえ。そのためにもこの間みたいに折を見て色々仕掛けちまうかも知んねぇが、長く一緒に居てぇからお前の好きなもの、嫌いなものを少しずつ知って行けたらいいなと思ってる。
…こんな日でもなきゃ照れくさくてなかなか言えねぇけど、どんなお前も好きだし大切だと思ってるよ。これから共に歩む先でも色んなお前を見せてくれ。新しいお前を見つける度、オレはまた何度でもお前に惹かれるんだろうな。

お前が生まれてくれた事、あの日オレに声を掛けてくれた事。それから喧嘩したり笑ったり照れたりの騒がしい日々や穏やかな時間に、気付かせてくれた感情。待っててくれた長い月日。お前が齎してくれた全てに感謝してる。
ありがとうな。
それと、改めて言わせてくれ。
誕生日おめでとう。
これからの一年、お前が無事に生き延びて、幸せだと笑って日々を過ごせるように祈ってるよ。叶うなら、オレの隣で。

再会してようやく半年を過ぎたな。
もう何年も一緒に居るような気がしないでもねぇけど、飽きなんて来そうにねぇよ。
これからも、よろしく。