1 エルヴィン・スミス

無題

君は求めてばかりだね。
自分からは言葉にして行動に移さないのに、いざとなったら「皆が置いていく」と言う思考回路に陥る。
自分の望みがあるのにそれを口にせず誰かの決定に流されることは、果たして健気さなのだろうか。自分の思いでさえ他人に移そうとするそれは、一種の責任転嫁のようなものではないだろうか。

繊細過ぎるがために、不器用なんだとは思うよ。だがそこから脱却しようとしないのなら、何も変わりはしない。
何かを変えるには何かしらの犠牲が要る。時間なり、痛みなり、物質なり、人間関係なり。だが変わらないばかりの停滞した人は、悪くもならない変わりに良くもならないものだ。だからこそ、そこに賭けて人は変えようと何かを犠牲にする。変化というのはそれだけの価値があるからだ。
だが君はその繊細さ故に、変わるための痛みや犠牲に耐えられないのだろう。それもまた、君の選択だ。

私は君のそばにいたかったし、それを言葉にもしたが、最終的に選ぶのは君だ。君の自由意志を無視して私はどうこうしたい訳じゃない。
それでも君は私のその行動を「見放した」と考えるのだろうね。
私の話術は確かに万人を動かせる万能ではないが、私なりに誠実に心を込めていたんだ。それを見放したと言われ、私の気持ちそのものを払い除けられるのはつらい。

最後の最後まで責任を私に押し付ける君に、私は選択しよう。
巣箱は壊した。この私の手で。
もう君からの文は届かない。どんな呪いの言葉も、どんな哀願の言葉も、どんな優しい言葉も。
これが君の選んだ選択だよ***。

好きなだけ私を呪いなさい。好きなだけ私を恨みなさい。
私から君にかける言葉は、もう何ひとつ遺っていないから。
2 ナイルドーク
言っている事とやっている事がちぐはぐなのはお前が無意識なのか、意図的なのか。昨晩かなり遅くまで戻って来いとお前から連絡が来ているがやはり本心ではないのだな。それと、お前は離れたくないだのうだうだ言っていたのも棚上げか。挙句こういう風に他人に伝わっていくのか、なるほど。まだ少し気にはなっていたのだが、もうお前のことはこれで吹っ切れた。ありがとよ
3 エルヴィン・スミス
ナイル、君も君で思うことなどがあったのだろう。
だが申し訳ないが君の怒りはその相手には届いていないよ。
私は仮の姿で、もうとっくに巣箱を壊してある。
君の言う日付には任務関係の連絡さえ送る必要のなかった寂しい男が私だよ。
残念ながら人違いだ。

私の言葉で無関係な君を傷つけたのなら済まなかった。
だが私と勘違いするような相手なら、忘れて憎むのが最善策だと思うよ。
君が不必要に傷ついた謝罪をするためにこれを残すが、君がこれを読んでくれたら元の紙も消すつもりだ。

嫌悪する相手と同じ顔をした私に言われたくはないだろうが、良い日々を過ごしてくれ。