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霞桜――第一夜――

薄雲が秋風に吹かれて足早に隠していた、まだ満たない月を現した。
月光を背に浴び、大きく影を従えている屋敷の一間に、淫らな花を咲かせている。
広く四角に区切った座敷の中央で闇が蠢く。
月の白んだ光が、大きな庭に繋がる障子の隙間から二人の肢体を照らし出す。
自分より大きな野獣に組み敷かれた乳色のしなやかな手足と、一見少女に見間違えてしまうほどの美しい顔を持ち合わせた子羊の喘ぎが聞こえる。
「あっ…あ…兄さ……兄さま」
余韻には妖しげな色気とそそられる響きがあった。
幼いやわらかな絹のような肌に、吸い付くように赤い舌が這う。
その生暖かい感触に反応して影はまた小さい喘ぎを漏らす。
空は嵐の直前のように雲を早く流していく。
澄み渡る空気は何を予言していたのだろうか?
まだ夜は明けそうになかった。

始めは兄が紫鳴(しなり)の寝床へ侵入してきたのだった。
寝付いていなかった紫鳴の布団の中へ兄、沙蹴(よなける)は潜り込んで来た。
紫鳴は後ろから冷たい身体で抱きしめられ、寝着にしている薄い襦袢のあわせから手を入れられ胸を撫で回される。
兄の匂いと、ひんやりとした心地よさに身体を預ける。
「沙蹴お兄様ぁ」
背後の人物に気づき、無意識のうちに甘えた声を出す。紫鳴は生まれもって、そういう淫靡な雰囲気を具えているのだ。
強引に口付けされて舌を入れられる。
「んっ」
ねっとりと舌を絡まれて程好く吸い上げられると、身体の力が抜けてしまう。
胸元をはだかされると、現れた小さな実を舐められる。そして片方の手で成長し始めた物を掴まれる。
「っ…」
紫鳴は身体をビクンと跳ねらせ、出そうになったいやらしい声を飲み込んだ。
紫鳴は弱いの、お兄様には逆らえない。
お兄様の言うとおりしていれば、すべて正しい。
俗世から半ば断たれて生活している紫鳴にとって兄はすべてで、そんな錯覚が刷り込まれていた。
そしていつもの夜が始まる。

沙蹴は嘗め回して艶のある乳首を、爪で引っかいた。
紫鳴の身体は快感に打ち振るえ熱を帯びる。
しかし紫鳴は自分の手で口を押さえ、まるで拷問に耐えているように苦渋の顔をする。
だが、その悶える姿さえも艶かしく美しく見えてしまうのだった。
沙蹴はその姿を楽しむように、ツンと立つ赤い実を二つとも指の腹で押し潰すように揉んだ。
「ふぅん…くぅっ……ふっ」
一段と苦しそうに眉を寄せ悶える。
慣れた身体は耐えようとするのとは反対にどんどん熱くなる。
そろそろ我慢の限界だろうと、沙蹴は口を押さえていた手をのけさせ、代わりに自分の指を小さな口にくわえさせた。
人差し指と中指をうまく使って口腔を撫でる。
そして、はちきれそうなそれをゆるりとしごいた。
硬く閉じられていた紫鳴の目が開かれ、涙が滲む。
必死に声は上げないようにするが、変わりに荒い息と口端から唾液が溢れてくる。
つっと顎を唾液が伝う。
耳横に顔を近づけ沙蹴が囁く。
「なぜおまえはそんなに我慢するんだい?怖いの?」
紫鳴は首を振る。
怖さはある、でもそれを無効にするくらいに沙蹴は絶大であり焦がれる人だったのだ。
「じゃあ、紫鳴のかわいい声を聞かせておくれよ」
そう言うと紫鳴の陰茎を追い上げるようにしごき、もう片方で舌を摘み上げた。
「あぁお兄様ぁ、でちゃふぅ!」
同時に白い精液が吹き上がった。