8 無名さん
(文芸部はただの読書同好会ではない──野望も熱意も持たず気楽に入部してしまった身に手厳しい先輩の教えに、果たして過去の先輩方はどんな文芸に興じていたのかと手にとったのは背表紙の焼けた古い部誌。適当に開いて読み始めた青春もののショートストーリーは、ありきたりな話であることを差し置いてもやたらと情景が生々しく想像できる。その理由を推測すれば部誌を手にしたまま部室を出て、夕暮れに染まる廊下、少し薄暗い下駄箱、遠く聞こえる別れの挨拶と、部誌に描かれた通りに追っていき、辿り着いたのは武道場。やはりこれはこの学校をモデルにした話なのだと確信して中を覗くと、凛とした剣道着の女子が目に入る。確か緑月寮の寮長で同学年だということはわかるが、名前までは定かでない。部誌とは違う展開に怯んだのを隠すように咳払いして)悪い、剣道部はまだ練習中か?良ければ少しだけ見学したいんだが……>入室