68 無名さん

…参ったな。はて、どっちだったか。(さらさらと小気味良く奏でられる水流の音を背に、河原から続く山道入り口で仁王立ちの侭静止して早数分。見事な皐月の晴れやかな太陽が光の筋を幾つも差し込み陽光燻る林道の、若葉の芽吹きを大いに蓄え如何にも爽やかな様は、まるで粗暴な戦闘とは無関係の美しい光景。常ならば今少し留まり昼寝の一つもしたい所である…のだが、此処を訪れた目的と言えば先程終えた血腥い激闘末の、僅か掠めた切り傷から滲む血糊を清めるため。個々として若干自由時間を得た休憩合間、ふらり訪れた清流河原の一画で目的を果たした迄は良かったのだが、いざ陣営へ合流をと踏み出す筈の足が肝心な一歩を踏み出せずにいるのは、要するに方角をど忘れしてしまった間抜けな顛末。救いと言えば、一掃した敵がそうやすやす現れないだろう事実のみで、ぼそりと零した独り言にふっと嘆息を零した後、翠嵐に当てられた双眸を細め敬礼宜しく軽く額へと片手を添え、其の侭遠方凝視気味に渋い面持ちを備え辺りを窺う素振りで視線を巡らせてはみるものの、直ぐ様腰に手を当てて脱力し考えを巡らせる様子には全く以って危機感などない呑気な様が滲み出ており/入室↑)おーい、誰か!…と言っても全く届く気がしないな。ここは潔く迎えを待つ方が賢いか、…うん、どうする。