63 無名さん
3 [田所 晴哉] [編]
(地面に散らばる茶に眩しげに細められた二つの黄金。久しく見ていなかったが故に酷く懐かしく感じるのは大袈裟な事だろうか。口元に緩く苦笑を滲ませ腰を下ろし伸ばされた掌を甘んじて受け入れるも、それだけでは物足りず熱を逃がしてしまわぬ様にと掌を右手で包み込み強く握り締めた。心地良く鼓膜を震わす声音に胸が締め付けられる。ーー彼が、帰って来たのだと実感が湧いた。己の一年は無駄では無かったのだと、諦めずにいた事が報われた事がとても喜ばしい。だが、しかし男は未だ夢と現実の境が分かっていないようだった。夢心地のまま緩く微笑まれ、つい呆れて苦言が口から零れ落ちる。夢の住人にされては堪ったものではない。帰る場所はもう決まっているのだ。久しい再開故に離れ難く感じる温もりを自分から手放して立ち上がり、先程よりも遠くなった距離から男を見下ろす。腕を組んで眉間に皺を寄せれば不機嫌な様相を保てるだろうか)なあに言ってんだよ、水端。寝惚けてんのか?全く、待たせすぎだし意味不明な事言ってっし、大丈夫かよ…。ーーー立てんの?(最早、言葉に優しさが足らないのは何時もの事。しかし、それも含めて己でありそれを引っ括めて愛してくれると言うのだ。ならば己も着飾る必要はないと掌を伸ばし男の様子を伺い。その際、突如として突風が一同の間を通り過ぎ驚きの声を上げ反射的に目を瞑る。乱れた髪を手櫛で直しながら思考はふと一年前へ戻り、柔らかく眼を細め男を見下ろし)ーーぶわ!っと、吃驚したぁ…。……、…そういえばアンタに会ったのも此処だったな。血流してて生きてんのか死んでんのか分かんなくて、年甲斐もなく狼狽えて必死でアンタを看病して…最初は変な野郎だと思ってたのにな。ーーほんと、アンタが帰って来てくれて良かったよ。………おかえり。
2016-09-21 21:02


田所さん