9 無名さん


何不自由ない暮らしが不自由とは、実家を飛び出した際両親へ投げつけた国房 慎…のちの黒歴史的迷言である。


感情的な上に負けず嫌い、おまけに小難しい事を考える事が苦手と安仁屋を一言で纏めるならば『無鉄砲の単純馬鹿』だろう。


「驚きこそが人生を豊かにしてくれる」。世界を股に掛けて活躍するマジシャンの父の言葉は、叶 喜助という人間を形成する上での大きな指針となった。


放課後、暗幕で遮光された教室、揺れる蝋燭の灯火、怪しげな魔法陣。如何にも胡散臭い呪文書を片手に黒装束を全身に纏うその男…嗣永 冬比古の一日は悪魔の召喚式から始まり呪術の詠唱で終わるーー

嗣永少年は、物心付いた時には既に黒魔術という非現実的で不気味な存在に魅入られていた。