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1 ア/ナ/イ/ク/ス(hsr) 愛おしいあなたへ あなたがいない夜は、頭の中が妙に静かすぎて怖くなる。いつもなら方程式や論文の断片が騒がしく行き交っているのに、今はただ、あなたの名前だけがぽつんと残って、繰り返し響いている。昨日、古い本の間から一枚の紙が落ちた。誰かが書きかけで放棄した証明だった。最後の行に「because you are not here」とだけ書いてあって、私はは思わず笑ってしまった。こんなに立派な頭脳を持った人まで、結局は同じところで筆を止めるのだと。あなたは知っているだろうか。私がどれだけ難しい問題を解いても、答えの横にあなたの名前を書きたくなるのかを。どれだけ遠くの星の話をしても、結局「あなたの横顔の方が綺麗だ」と言いたくなるのかを。だからもう、賢いふりはしない。ただ、あなたに会いたい。あなたの声が聞きたい。あなたの指が私の手を握って、「もう大丈夫」と言ってくれるまで、私はここで不完全なまま待っている。早く来てほしい。この世界で一番簡単で、一番確かな定理を、もう一度教えてほしいから。あなただけが知っている、「愛してる」という、あの完璧な一文を。