落葉亭

令和3年　3月雑詠

リュック紐肩に食ひ込み山笑ふ

囀りやイーハトーブの風の中

波音の夕日に翳す桜貝

紅椿浮かぶ硝子の水鉢に

光堂へと一本の雪解道

鳥雲に入る廃校の時計台

春惜しむ特急電車のラストラン

パンジーの咲いて夜明けの空の色

珈琲に添へしマカロン春の昼

マカロンのパステルカラー春日和

令和3年　山茶花3月号

着ぶくれて炊き出しボランティアの人

腹帯に寿の文字冬ぬくし

ストーブの前が定位置猫眠る

古日記夫の闘病記録とも

婦人誌の付録の図案ショール編む

令和3年　2月雑詠

受験子を運ぶ満員電車かな

館夜寒謎めくモナリザの微笑

糠床をならす指先余寒なほ

花ミモザ坂の上なる異人館

参拝の今朝の白梅三分咲き

洲浜草群れ咲く能登の岬かな

夫とゐて背中合はせに芹を摘む

食パンの耳に弾力春立ちぬ

大試験終へてゲームを再開す

春寒し駅ホームより富士見えて

採れたての若布いつぱいのバケツ

春寒しペットボトルの固き蓋

早逝の詩人の年譜館夜寒

令和3年　山茶花2月号

婦人誌の付録のレシピ大根煮る

コーヒーにミルクたつぷり冬に入る

デリバリーランチ勤労感謝の日

令和3年　1月雑詠

初乗の出勤となる駅ホーム

冬晴や海の向こうの観覧車

葉牡丹を主役としたる仏花買ふ

中華街市場通りの雪だるま

雪掻の前の体操欠かされず

オカリナにそつと指乗せ初稽古

黒髪を一つに束ね弓始

早梅や車で潜る大鳥居

卓球の肘の直角初稽古

寒晴の山の稜線見渡せり

膝毛布海を見てゐるテラス席

湯煎バター溶けゆくやうに日脚伸ぶ