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haru
令和2年 山茶花9月号
鈴蘭を抱きて挙式会場へ
今跳ねし鯉萍の中に入る
鰻屋にテイクアウトの幟立つ
水替へてよりガーベラの背筋伸ぶ
ランボオを閉ぢて木蔭のハンモック
昼顔や潮の匂ひの埋立地
故郷の湧水甘し蛍飛ぶ

haru
令和2年 9月 雑詠
立秋やリモート会議なほ続く
秋暑しペットボトルの硬き蓋
病む夫の快癒を願ふ流れ星
波音の届きし窓辺揚花火
点滴に音無き拍子夜の長し
闘病の夫の爪切る夜の秋
病棟の大きな薬缶麦茶注ぐ
秋の蚊を叩くエレベーターの中
秋灯し手術の同意書にサイン
桃色の婚姻届小鳥来る
東屋の椅子は切り株風は秋
行く夏やボトルシップの白き砂
子の机いま吾の机秋灯下
縁側に猫と風船葛揺れ
爽やかや癌を体の一部とし
長き夜のスマートフォンの置きどころ
曼珠沙華願掛け寺に来てみれば
紫苑咲く胸ポケットの高さかな
百日紅揺るる静岡がんセンター
面会はテレビ電話といふ秋思
手握れば握り返され秋の夜
コスモスの径歩きつつメール打つ
秋風や面会時間待つベンチ
秋高しがんセンターは丘の上
秋薔薇がん病棟へ続く径
秋夕焼手を振つて言ふまた明日
ホスピスに移りし決意九月尽
パソコンに残る遺言秋灯下
水色の夫のパジャマ夜濯ぎす
手術待つ髪を洗つて爪切つて
缶詰の梨やはらかき治療食
肌寒や足はみ出してゐるベッド
病室の背凭れの椅子秋灯
思ひ出の欠片を集め秋夜長
突然の余命宣告夜の雷
マスカット鋏を入れる隙間無し
糸瓜忌や水を飲むにも力入る
長き夜のベッドに結ぶトリアージ
転院の車窓に富士と鰯雲
小鳥来るテラスにベッド移動して
秋の日や病床に呼ぶ散髪屋
慎重に握るハンドル秋の雨
点滴に生かされてゐる九月かな

haru
令和2年 山茶花8月号
湯の宿の石の回廊竹落葉
友達のやうな母ゐてカーネーション
葉桜となりて小さき駅舎かな
大学の名が停留所樟若葉
伊豆の海飛魚までも透き通る

haru
令和2年 8月 雑詠
ランチとる都心の森のレストラン
レジ並びつつ終戦日のサイレン
鎮魂のピアノ八月十五日
新聞の社説八月十五日
墓洗ふまだ日当たらぬ朝のうち
花火終へ猫の戻りし魚具置場
蝉の殻転がつてゐて父の墓

haru
令和2年 花鳥諷詠7月号 入選
木村享史 選
風光る空に近づく観覧車

haru
令和2年 山茶花7月号
恙無く進むリハビリ花は葉に
永き日や乗り放題の旅切符
春風やふはりと揺るる服を着て
イヤホンに微熱のこもる日永かな
チューリップ花束にして誕生日
囀や上下に揺らすティーバッグ

haru
令和2年 7月 雑詠
白シャツに玉虫色の貝ボタン
麦酒買ふビニールカーテン越しのレジ
金魚飼ふ野良猫が水飲みに来る
観覧車より噴水の虹の色
麦酒買ふ煙草と競輪新聞と
駄菓子屋に毎日通ふ夏休
汗拭ふ二段ベッドを組み立てて
一家族人数分の扇風機
ラーメンと同じ値段のかき氷
蓋の開かない硝子瓶の辣韮
夕焼や島に灯りのともる頃
約束の駅は西口星迎
懐石の品変はりたる小暑かな
渋団扇いま饅頭の蒸し上がる
巴里祭ベイブリッジ見へし部屋
今日からは一人の暮らし金魚飼ふ
人を待つタワー七月十四日
山車囃子路地といふ路地抜けにけり
曳山車のすれ違ふには狭き路地
習作の月下美人の絵の葉書
日盛やバスを待とうか歩こうか
水槽に広がる海月五千匹
煩悩や無になれるまで海月見て
孔雀草きつき傾斜の花時計